耳鼻咽喉科の診療(3) 頭頸部腫瘍
1. 悪性腫瘍
まず、耳鼻咽喉科がどんな悪性腫瘍を扱っているか診てください。多くは扁平上皮癌という白く硬い出血し易い癌腫です。
扁平上皮癌の特徴は放射線感受性が高く、また抗癌剤との併用でその奏功率が向上します。もちろん、早期癌から進行癌までの進行度が予後を左右します。図14の喉頭癌なら放射線治療で充分治ります。しかし、上顎癌や咽頭癌では多くの場合進行していて単独の治療には限界があります。当院では、放射線治療と小量の抗癌剤の治療を併用することで、合併症が少なく奏功率の高い治療をベースに集約的治療を行っております。
当科が過去4年間に扱った頭頸部癌患者は表2に示した97名で、放射線治療と小量の抗癌剤の治療を併用する治療の奏功率は表3のごとく91%でした。
治療を妨げる合併症は8名のみ出現しましたが、2週間以内の休憩で再治療が可能でした。もちろん、進行によっては手術治療が必要になりますが、再建手術など形成外科とのチームも確立しており、根治手術を目指して努力いたします。
表2 過去4年間に当科で扱った頭頸部扁平上皮癌患者
| Stage Ⅰ | Stage Ⅱ | Stage Ⅲ | Stage Ⅳ | 計 |
喉頭癌 |
18 |
10 |
7 |
5 |
40 |
鼻副鼻腔癌 |
1 |
1 |
3 |
6 |
11 |
舌口腔癌 |
3 |
4 |
2 |
3 |
12 |
上咽頭癌 |
0 |
0 |
3 |
5 |
8 |
中咽頭癌 |
0 |
2 |
2 |
6 |
10 |
舌咽頭癌 |
0 |
1 |
6 |
6 |
13 |
外耳癌 |
0 |
1 |
2 |
0 |
3 |
計 |
22 |
19 |
25 |
31 |
97 |
表3 CBDCA少量・放射線併用療法の奏功率 奏功率91%
| CR | PR | NC | PD | 判定不能 |
喉頭癌 |
20 |
10 |
1 |
0 |
3 |
鼻副鼻腔癌 |
0 |
5 |
0 |
0 |
3 |
舌口腔癌 |
1 |
4 |
1 |
0 |
1 |
上咽頭癌 |
2 |
4 |
1 |
0 |
0 |
中咽頭癌 |
4 |
4 |
0 |
0 |
1 |
舌咽頭癌 |
0 |
6 |
3 |
0 |
0 |
外耳癌 |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
耳鼻咽喉科領域の特別な抗癌剤治療として動脈をつかった治療があります。図20のように耳前の動脈から腫瘍の栄養血管に抗癌剤を注入する方法です。当科では舌、口腔底、中咽頭、上顎癌に応用しております。原理は抗癌剤を腫瘍に高濃度に送り込むことと、腫瘍栄養血管の閉塞です。図21のように、抗癌剤注入回数が増えるごとに、腫瘍血管は閉塞してきます。結果的に腫瘍全体を壊死に陥れるとこが出来ます。ただし、抗癌剤の量や腫瘍発生部位による制限があります。
現在、多施設で放射線科による超選択的動注療法が高い奏功率を示していますが、稀ではありますが生命に影響する重篤な合併症があります。私自身同様な経験があり当科では行っておりません。癌治療は患者さんのQOLをなるべく損なわずに行えることが大切と思います。患者さん、ご家族の意見をとり入れて治療のコンサルトを行いたいと考えております。
頭頸部癌ではたばこ、お酒との因果が報告されています。毎日20本たばこを吸って20年続けると、20×20で400、これをBrinkman指数といいます。ビール1本、ウィスキー水割り1杯、日本酒1合×年数はSake指数といいます。ふたつの指数をアンケートで調査し、指数の度合い別に表4のようにA~Fのグループに分けてみると、喉頭癌、中・下咽頭癌ではたばこ、お酒との高い因果が伺えます(図22)。もちろん、原因はこればかりではなく、遺伝的なもの、舌癌では齲歯との物理的関係などがあります。ちょっと、予防と思い心掛けて下さい。頭頸部扁平上皮癌発生の平均年齢は60才代です。
2. 良性腫瘍
頭頸部に出来る腫瘍は癌ばかりではありません。図23、24、25に甲状腺の良性腫瘍を示します。甲状腺手術は年間40件ほどですが、約3割に癌もみとめます。未分化癌という稀な癌以外は手術で切除できます。
図26、27は耳下腺に多く見られる混合腫瘍です。顔面神経を傷つけないように切除します。耳下腺を含めた唾液腺腫瘍手術は年10件ほどです。
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